今年5月、日立製作所が海外を中心に営業人員を2万人増やすというニュースが出た。従来の機器・設備販売から、AI(人工知能)やビッグデータ解析などの先端技術を駆使したコンサルティング型サービスの提供に経営の軸足を移すのだという。いわゆる「コンサルティング営業」の登場だ。

もちろん日立は「コンサルティング営業」の役割や意味合いをよく検討し定義したうえで、今回の経営判断をしたのだろうと思う。しかし、一般的に、「コンサルティング営業」と言ってはみたものの、結局「普通の営業」と何も変わらないまま、いつの間にかその看板を降ろす企業がほとんどのように思える。

企業が「コンサルティング営業」などと言いはじめるのは、多くの場合、「商品が簡単には売れなくなった」ということを意味する。需要が一巡し、通り一遍のやり方では売れなくなってしまったために、物財だけでなく、そこに知恵という付加価値をつけて販売することを称して「コンサルティング営業」というのである。

しかし、この「コンサルティング」という言葉の意味するところは非常に曖昧である。簡単に言えば「専門家の立場からクライアントの相談に乗り、解決策を示すこと」だが、どの程度、どのように相談に乗り、どのような解決策を示すのか、人によってとらえ方がまちまちなのだ。したがって、「コンサルティング営業」が何を意味するのかもわかりにくい。そんなことから、コミュニケーションを確かなものにするため、私は「コンサルティング営業」をいくつかのタイプにわけて話をすることにしている。

本当に「コンサル営業」と呼んでいいのか?
営業スタイルでわかる4つのタイプ

たとえば、クライアントが「パンフレットを作りたい」と言ったとする。これに対して「わかりました。何ページくらいですか?オールカラーで良いですか?どの紙を使いますか?そしたらいくらくらいです」と言って料金プランの説明をはじめるのは、従来の「御用聞き営業」である。クライアントが認識している顕在化したニーズを拾い、欲しいという商品やサービスに落とし込む。非常にシンプルだ。

一方、「そもそも何でパンフレットが作りたいんでしたっけ?」と聞き、「集客のために必要なんです」と答えるクライアントに対し、「それならイベントも企画されてますよね。お手伝いしますよ」と提案するのが「総合営業」だ。彼らは「顕在化しているニーズを拾う」という点では従来の「営業」と同じだが、取り扱う商品やサービスが多く、それらを関連付け、組み合わせて販売することに長けている。

これに対し、クライアントの潜在的なニーズを掘り起こすのが「提案型営業」だ。こういった場合、クライアントの想定顧客をいくつかに分類し、それぞれの顧客群ごとに訴求ポイントが異なる別のパンフレットを刷り分けることを提案する。彼らは、クライアントに対して「もしかしてこんなことでお困りでは?」と探りを入れ、「こういう風にやるともっと儲かりますよ」と最適な商品やサービスを提案するのだ。しかし、商品を単品で売るという点では従来の営業と同じだ。

商品サービスを複合的に提案する「総合営業」と、顕在ニーズだけでなく潜在ニーズまで含めて解決しようとする「提案型営業」の合わせ技が「ソリューション営業」である。

「パンフレットが作りたい」と言うクライアントに対し、そもそも「何のために」を問い、さらに「どんな人に届けたいのか」「どんな場面で使いたいのか」を掘り下げ、イベントの提案や実施までを組み合わせた形で、顧客群ごとに刷り分けたパンフレットを作成し、場面に応じた形で使えるように、パンフレットの使用マニュアルやロールプレイイングまで提供する。

そこまでやると、その的確なアドバイスとパンフレットの表現力のおかげで業績は上がり、クライアントは大満足。「次もまたおたくで」と言われ、良好な関係性の中で仕事が続いていく……。このような「ソリューション営業」こそが、多くの会社が理想として掲げる「コンサルティング営業」だろう。しかし、これがなかなかうまくいかない。

クライアントの立場から言えば、あまりに多くのことを1社に頼る「ロックイン」状況は望ましくない。複数の企業に競ってもらったほうが質的にも価格的にも良い結果をもたらすことが多いからだ。いくら使い勝手が良くても、頼りすぎて、他社に変えるスウィッチングコストが高くなると、値段交渉もできなくなる。

また、「安心できない」というのもある。いくら守秘義務契約を結んでも、いつも数字に追われている営業は他社でその事例を話すものだ(と多くの会社は思っている)。そういう相手にすべてをさらすことは危なっかしいから、話せることは限られてくる。

唯一、ソリューション営業が、うまくいくことがある。何らかのビジネスが大当たりし、お金は十分にあるのだけども、人とノウハウがない新興企業などがクライアントになった場合である。クライアントには、さまざまな企業の商品や能力を比較考量する人も技能も経験もないから、すべてを任せてくれる。忙しすぎて顕在化している課題すらどれだけあるか明確に把握できない状況のところに、他社事例などをもとに「将来こんなことでも困りますから」と気を利かして提案してくれるのは、本当にありがたい。ただ、実際には、他社での成功事例をパッケージにして、当該企業向けにアレンジし、セットで移転させているにすぎないのだが(*)

実は営業出身の役員の多くが、こういった新興クライアントで大きくビジネスを成長させ、その成果が認められて役員にまで上り詰めた人たちなのである。彼らには、自分が「コンサルティング」を成功させてきたという自負心があり、「今の人にはなぜできないのか」と不思議に思っている。しかしながら、彼らが成功したときとは、市場の状況が大きく違う。

優秀な人が新興企業にも転職するようになり、クライアント側もベンダーを使い分ける能力を持っている。企業の成功事例はわざわざ教えてもらわなくてもネットに溢れている。複合的に機能を任せても、実務は関係会社が担当し、さらに実行は下請け企業に投げるだけだから、しっかりと統合化したサービスに組み上げられないこともバレている。

本当の「コンサルティング」をすれば
自社製品が必要なくなる可能性も

さらに、営業側にも「コンサルティングしきれない」事情がある。本当にコンサルティングしようと思えば、相手企業のことを深く知らなくてはならない。そもそも分析能力を身に着けていないし、能力獲得のための時間もかかる。社員に適性がないことも多い。もしできたとしても、一社に相当かかりきることになり、フットワークが極端に悪くなる。そうなるとその1社から破格の売上が上がらない限り、コストパフォーマンスが悪くて儲からなくなってしまう。

また、「コンサルティング」を、顧客の本質的な課題の解決から考えようとすると、実は自社商品やサービスでは解決できない領域に本当の問題があることも多い。さらには、顧客の利益を第一に考えるというコンサルタントの基本的な倫理に立てば、「自社製品より安くて良い競合の製品がある」場合には、そちらを採用しなくてはならない。コンサルティング専業の会社ならよいが、「自社製品を売りたい」事業会社のできる「コンサルティング」にはそもそも限界があるのだ。

このように見ていくと、事業会社が「コンサルティング」をいかに扱うかは大変難しい問題だとわかる。現実的には、顧客ごとに「提案営業」や「総合営業」などを巧みに実施し、可能性のある場合には、「ソリューション営業」に挑戦するというのが落としどころになるだろう。

いずれにしても自社の商品サービスが提供している機能から、遡って深堀りしていくほうが無難であることは間違いない。顧客企業の経営的な問題の抽出から、本質的な課題を発見し、その体系的分析の結果として自社商品に落していくといった、まっとう(?)な「コンサルティング営業」は、ほぼ確実に屍の山を築くことになるだろう。ともあれ、まずは自分たちが何をもって「コンサルティング営業」と言うのかを明確に定義しておくことが必要だ。

 

https://diamond.jp/articles/-/93235?page=3

コンサルティングというものは難しいものですね。

 

 

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