毎朝痴漢される」 娘の告白に血の気が引く
娘の様子がおかしい。なんだか元気がない。笑顔は見せているものの、無理しているように見える。
「どうしたの、学校で何かあった」
加代子さん(仮名・43歳)は心配そうに尋ねた。
娘は私立大学付属高校の3年生。受験はしないが、志望の学部に進むには、学校の定期テストでいい成績を取らなくてはならず、今は大事な時期だった。
「うん、あのね」
重い口を開いた娘の話に、加代子さんは血の気が引いた。なんと、前学期の後半から、毎朝電車で痴漢に遭っているのだという。
「上下黒っぽいジャージにサンダル履きのおじさんで、体をぴったりと押し付けてきて、触られるの。乗り換えのM駅から乗車してきて、途中のN駅で降りていく。電車の時間をずらしても車両を変えても、気が付くと同じ車両に乗ってきて、くっついてくるの。完全に狙われていると思う。ものすごく気持ち悪いんだよ。休みが明けたら、もういなくなるかなって期待してたんだけど、だめだった。3日連続で触られた」
涙を浮かべ、震えながら打ち明ける。加代子さんは、汚らしい男の行為に、泣きそうな顔で耐えている娘の姿が目に見えるようだった。
(おとなしいと思って。清純なうちの娘になんてことを。絶対に許さない)
今度は怒りで体が震える。
(でもどうやって退治しようか。一緒に電車に乗って、襲ってきたところをとっつかまえて警察に突き出すか。反撃されたときのために武器がいるかしら。いや、私、娘のことになると凶暴化するから、殺しちゃうかもしれない。じゃあパパをボディガードにつけるのがいいかしら。いやいや、パパも凶暴化する可能性は高い。でも、殴り合いになったら負けちゃうかも。それに、その日にタイミングよく痴漢野郎が出ればいいけど、出なかったら、そいつが現れるまで何日間も会社を休むことになるよね)
慌ただしく思考を巡らせた加代子さん、やはりここはプロフェッショナルに任せるのが一番という結論に達し、管轄の警察に電話した。
「娘が毎朝、電車で痴漢に遭っているというんです、どうしたらいいんでしょう」
尋ねるとすぐに、担当の部署に電話が切り替わり、もう一度状況を説明すると、「これから署まで、お嬢さんと一緒に来られますか。対策を相談しましょう」と言ってもらえた。
「警察行こう、大丈夫。お母さんが絶対守ってあげる」
● 痴漢を逮捕しても 逆恨みが怖い
それから30分も立たないうちに、母娘は警察署に到着した。受付で要件を告げ、階段をのぼると、俳優のムロツヨシ似の優しそうな私服警官が、階段の踊り場まで迎えに来てくれた。
「まずはお嬢さんに事情を伺いたいので、お母さんはあちらの部屋でちょっとお待ちいただけますか」
同席して話をするつもり満々でいた加代子さんは、戸惑った。しかし、性犯罪の場合、被害者には母親には知られたくない事実も往々にしてあるらしい。心配でたまらない気持ちをぐっと抑え、待つことにした。
それから20分。加代子さんは部屋に招き入れられた。
机を挟み、先ほどの“ムロツヨシ”ともう1人、年配の警官と向き合って腰かけると、警官たちは今後のことについて話し始めた。
「お嬢さん、かわいそうでしたね。お母様もさぞご心配でしょう。明日、あさって学校はお休みなので、次の月曜日から3日間、私服警官を電車に同乗させ、痴漢を現行犯逮捕したいと思います。
ただ1つ、お願いがあります。痴漢は逮捕され、有罪になって服役したとしても、すぐに出てきてしまいます。その場合、逆恨みされて、危害を加えられないとは限りません。危険なので、卒業までの数ヵ月、通学のコースを変えていただけませんか。だいたい10分ぐらい余計にかかる程度なんで、いかがでしょう」
加代子さんは娘の顔を見た。娘は硬い表情でうなずいた。
● 私服警官にびびった? 痴漢は2度と現れなかった
土日はあっという間に過ぎ、「痴漢逮捕大作戦」が決行された。加代子さんは連日、犯人逮捕の報せを待っていたが、結局、痴漢は現れなかった。
3日目の午前中、警察から作戦打ち切りの連絡を受け、加代子さんは暗澹たる気持ちで、娘が学校から帰宅するのを待った。
(こうなったら、今度は私が付いて行って、守ってあげるしかないわね)
決意を固め、鼻息を荒くして待っていたが、娘は意外にも明るい顔で言った。
「痴漢はもう現れないかもしれないよ。だってね、私服警官の人たち、どう見ても一般人じゃないんだもの。目つきは鋭いし、大きくてたくましいし。あれじゃ怖くて、近づけないんじゃないかな」
そうなんだろうか。そうあってほしい。
加代子さんは心配だったが、娘の言葉通り、痴漢は2度と現れなかった。なんだか悔しい気もしたが、逆恨みされずに済んで、通学コースも変えなくて済んだのだから、最善の結果と思うべきだろう。
● 女性専用車両で仁王立ち 威嚇する男性にうんざり
胸をなでおろしたものの、不安が完全になくなったわけではない。
娘はそれ以来、電車に乗る際は常に表情が硬い。「黒っぽいジャージ姿のおじさんがいると具合が悪くなる。そばに来られると過換気になって、倒れそう」という。軽いPTSD(心的外傷後ストレス障害)かもしれない。
不憫(ふびん)でたまらないが、かといって、この世から男性を消し去るわけにもいかない。
胸を痛める加代子さんを、さらに残念な思いにさせる出来事がある。
「女性専用車両は、男性差別だ」と息巻く、男性たちの存在だ。
痴漢に遭ったJRの路線には女性専用車両はないが、普段乗る私鉄にはあり、娘は利用している。そこに乗っているときだけは安心できる「救いの時間」なのだが、時折、ずかずかと車内に乗り込み、「文句があるなら言ってみろ。俺は断固戦うぜ」的なオーラをガンガン出して、周囲をにらみつける男性たちがいる。
「男性だって、弱い男性はいる。混んだ電車で、女性だけが守られるのはずるい」
「俺は絶対に痴漢なんかしない。それなのに、排除するなんて無礼だ」
「そもそも電車が混み過ぎるから痴漢も出る。女性専用車両をつくる前に、混雑を何とかしろ」
「運賃を支払っているんだから、どの車両に乗ろうが俺の勝手。鉄道会社には、俺を別の車両に移らせる権利はないんだ。だから俺は女性専用車両に乗ってやる」
などなどの主張らしいが、いかがなものか。
たまに、身体の不自由な奥さんや子どもを介助する男性が、女性専用車両に乗っていることがあるが、そういうのは別。周囲の女性だって、その辺の事情は察することができる。
いい年をして、“戦うべき相手”が誰なのかも分からないとは情けない。抗議するなら、鉄道会社にするべきだ。
なんなら、痴漢被害をなくすために、立ち上がってみてはどうか。どうせ立ち上がりはしないだろう。戦うのは、自分より弱そうな相手限定の輩(やから)だ。痴漢に心を傷つけられ、おびえる娘を怖がらせることの何が正義なのか。
女性専用車両の真ん中で仁王立ちになり、戸惑う女性たちを威嚇する男性を見ると、加代子さんはうんざりせずにはいられない。
かといって、こればかりは、夫の浩明さん(仮名・45歳)に訴えてもどうにもなりそうにない。
引用元
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190215-00194003-diamond-soci
痴漢とか怖いですね。
やはり声が出ないぐらい怖いらしいので