やかんを手にカーリングのポーズをとる高齢の女性。通信販売カタログのテレビCMなどで見掛ける彼女は「自撮りおばあちゃん」こと西本喜美子さん、90歳。「インスタ映え」するユーモアあふれる写真を生み出している。
物干しざおにぶら下げられたり、車にひかれそうになったり――。見る人を驚かせ、楽しませるセルフポートレート(自撮り)で一躍有名になった西本さん。熊本市在住のアマチュア写真家だ。
■センスと個性、型破りな発想
画像投稿アプリ「インスタグラム」やブログにアップする作品は、とにかく型破りでシュール。和室の障子の前で三度笠の渡世人になってみたり、ペンを鼻に差して、ねじり鉢巻きにシャツ姿のおやじさんになりきってみたり。誰しも年を取れば記憶力は落ち、体の機能は衰え、足腰に痛みも出てくる。歓迎されない「老い」すらも、西本さんは滑稽な表現で笑い飛ばす。
それにしても、人が思い付かないような発想でユーモアあふれる作品を次々と生み出し、自虐的な笑いにしてしまうこのセンスと強烈な個性。どのような人生経験を経て磨かれてきたのだろう。
カメラを始めたのは72歳。アートディレクターで長男の和民さんが開く写真教室「遊美塾」の生徒に誘われ、地元熊本の教室に通い始めたのがきっかけ。「それまでは風景写真が趣味の主人に付き合って出掛けても、カメラには少しも興味がなく、触ったこともなかった」
そんな西本さんがカメラを始めるとあって、当時存命だったご主人は驚きつつも一眼レフを差し出し、「これを使え」と応援。しばらくするとより軽い一眼レフに加え、露出計や接写用マクロレンズまで買いそろえてくれた。
写真塾に通い始めて間もない頃、自撮りの宿題が出た。「何を撮ったら面白いかなと思っていると、ちょうどゴミ出し日で、目の前にゴミ袋があった。『これに自分が入ったら面白いかな』と思って、やってみることにしたんです。私もいい年だし、そろそろ捨てられてもおかしくないですし」。和民さんがネットに写真をアップすると、たちまち話題になった。