現在はタバコを吸っていなくても過去に喫煙していたり家庭や職場で受動喫煙の経験のあったりする人で、階段を上がったり駆け足すると息切れがする、咳や痰がひどいといった症状が出たら、病院で「肺年齢」をチェックしてみることをお勧めする。もしそれがCOPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease、慢性閉塞性肺疾患)という病気による症状なら、早めに治療を始めたほうがいいからだ。

40代でも発症するCOPD

COPDの原因のほとんどは、受動喫煙を含むタバコ(タバコ煙、加熱式タバコも)と考えられている。東北大学大学院医学系研究科・医学部の黒澤一教授は、産業医学の立場から職場におけるメンタルヘルスの重要性や禁煙・受動喫煙対策などを提唱してきたが、COPDの啓発とタバコ問題についても力を注ぐ医師であり研究者だ。

黒澤教授「COPDは肺を破壊する病気です。進行はゆっくりと遅く、初期の段階で自覚症状がなく、本人が気づかない間に病気が進むため、息切れなどを加齢によるものと勘違いしたり、あるいは肺炎など他の慢性的な疾患と間違ったりして発見や治療が遅れがちになります。日本には約530万人のCOPD患者がいると推定されていますが、そのうちの20万人程度しか治療を受けていない状況なんです」

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黒澤一(くろさわ・はじめ)東北大学環境・安全推進センター教授(統括産業医)、東北大学大学院産業医学分野教授。東北大学医学部卒業、福島労災病院第二呼吸器科部長、カナダ・マギール大学特別研究員、東北大学病院内部障害リハビリテーション科講師、日本呼吸器学会「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2018」の作成委員会委員長など。写真撮影筆者

高齢者だけではない。意外に早い年代のうちに病気が進む人もいる。東北地方に住むAさんは、1日60本の喫煙を16年間続けてきた48歳のタクシー運転手だ。

ある頃から咳や痰が出て苦しかったが、近所の病院ではたちの悪い風邪といわれた。そんな症状が数ヶ月も続き、洗車作業なども苦しくてできず、同僚に助けてもらっていたほどだったという。夜に突然、呼吸困難になり、その翌日、外来を受診して黒澤教授の診察を受けたところ、重度のCOPDという診断となった。

呼吸機能検査(スパイログラム)を使い、深く息を吸って一気に吐き出した空気量のうち、最初の一秒間に吐き出した量(一秒量、FEV1)の数値が肺機能の指標となる。この数値を肺活量で割った値(一秒率)で70%未満は肺機能に閉塞性の障害がある(COPD)と診断されるが、Aさんの場合は27.0%しかなかった。

黒澤教授によれば、レントゲン写真やCT検査により、Aさんの肺が破壊されていることは一目瞭然だったという。

黒澤教授「肺はストッキングのような組織で、呼吸のたびに伸縮します。COPDになると肺が壊れて伝線したストッキングのようになってしまうため、弾力性がなくなって伸縮しなくなってしまいます。タバコを吸うと肺の中に、しつこいタールやその他の有害物質がべっとりと付着します。受動喫煙でもCOPDになりますし、殺虫剤にも使われるような毒性の強いニコチンを吸収する加熱式タバコでもCOPDになる可能性が指摘されています」

 COPDの原因はほぼタバコといわれたAさんは、外来受診後すぐに禁煙した。そして、タクシーの背もたれに禁煙車両表示を掲げ、車内でタバコを吸わないよう乗客の協力を求め始めたという。

喫煙経験があれば誰がなるかわからない

Aさんは、まさかタバコのせいでCOPDという苦しい病気になるとは思ってもいなかったそうだ。

黒澤教授「日本人の喫煙者5~6人に1人は、典型的には60歳以降からCOPDになります。そして誰がCOPDになるかは、事前に知ることができません」

年代によって喫煙率が下がってきたとはいえ、日本人男性の場合、20~50歳代の喫煙率は1970年代で70~75%、80~90年代で55~70%、2000年代に入っても50~60%だった。こうした年代の男性が高齢化を迎え、COPDを発症し始めている。高齢化が進む日本ではこれからCOPDの患者が増えることが予測され、日本政府は健康日本21(第二次)で2022年までにCOPDの認知度を80%にという目標を掲げる。

COPDの原因はほぼタバコだが、現在は吸っていなくても過去に喫煙歴があると、吸っていない人より肺の機能低下が早く進行することがある。だが、タバコはなるべく早く止めたほうがいい。加熱式タバコも同様だ。

黒澤教授「タバコが原因の病気なので、喫煙しなければほとんどCOPDにはなりません。COPDの最大の予防はタバコを吸わないことであり、禁煙すれば病気の進行をゆっくりにすることができる。将来のリスクの芽を摘んでおくためにも、若い世代への禁煙啓発が必要なんです」

タクシー運転手のAさんが受けた呼吸機能検査(スパイログラム)による検査では、年齢や身長、体重などの数値を算出することによって肺機能をわかりやすく説明する「肺年齢」が出る。最近ではMostGraphという装置を使い、呼吸の抵抗値を測定することでCOPDの初期状態を評価できるようにもなっている。

黒澤教授「40歳以上で喫煙歴のある場合、肺年齢を調べてみたほうがいいでしょう。実際の年齢より肺年齢が10歳以上多い人はCOPDの可能性が高いといえ、精密検査を受けて早いうちに治療を始めることが大事です。特に認知症や糖尿病などの合併症によって重症度が上がりますから、介護負担などへの影響も大きい病気といえるでしょう」

 COPDがひどくなると、息が苦しくて動けず、活動的でなくなるから、出不精になって閉じこもりがちになり、気鬱になって社会的なつながりが希薄になる。苦しいので食欲もなくなって体力や免疫力が低下し、肺がんや動脈硬化などの合併症にかかりやすくなる。また、仕事にも支障が出て経済的な困窮状態になることも多いなど、患者のQOL(生活の質)が極端に落ちてしまう。

「肺年齢」を調べてみよう

COPDによって低下した肺の機能はもとに戻らない。だが、最近になって有効な薬物療法が開発され、運動や呼吸リハビリテーションといった身体活動が治療に効果的ということがわかってきた。

例えば、歩行だ。よく万歩計などというが、黒澤教授は「1万歩歩く必要はない」という。歩く量は人それぞれでいい。可能な範囲で活動的な生活をこころがけることが大切だ。そうでないと、COPDによって気分が落ち込み、身体の活動量も少なくなり、身体の不調が出やすくなって、症状がますます悪化することにつながる。

黒澤教授「歩くことが大事という本当の意味は、筋肉を動かすことにあります。苦しくなったら休んでもかまいません。毎日少しずつ、歩いた記録を付けていくのもいいでしょう。胸や背中などを柔らかくするための柔軟体操も効果的です。体力も症状も患者さんそれぞれですので、その患者さんに合った方法で身体を動かしていただけば、活動的になって気持ちも前向きになり、患者さんのQOLが悪化することを防ぐことができ、それを継続することによってQOLを格段に向上させることさえ可能になるんです」

過去喫煙者である筆者の場合、喫煙歴は約25年間ある。心配になって近所の呼吸器科のクリニックで検査してみたところ、肺年齢は実年齢より7歳ほど若かった。だが、黒澤教授によれば安心は禁物だという。

黒澤教授「肺の機能が加齢によって低減するのは明らかです。問題はその低減の割合がどれくらいかということで、石田さんの呼吸機能が健常者と同じ割合で低減しているかどうかが問題です。タバコをやめると呼吸機能低下にブレーキがかかります。しかし、その低下が健常者より早いと肺年齢が悪化していくので、定期的に肺年齢を調べてみることをお勧めします」

超高齢化社会を迎えた日本は、過去の高い喫煙率のつけを支払わされ始めている。健康寿命の延伸は医療費を含む社会保障費の抑制にとって命脈ともいえるが、COPDを含めた「タバコ病」はその最大の障害になっているのだ。

 

引用元

https://news.yahoo.co.jp/byline/ishidamasahiko/20181205-00106621/

肺チェックしてみたいですね。

実年年齢と肺年齢の差がどれだけあるのか知りたいです。

 

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