AR(拡張現実)アプリ「セカイカメラ」やウェアラブル機器「テレパシー・ワン」で世間を驚かせた井口尊仁氏。事業としては失敗したが、再び起業し挑戦し続けている。「アイデアが浮かぶと挑戦せずにいられない」という、ゼロからイチを創造する原動力について聞いた。

■お知らせ■

日経ビジネスの「オープン編集会議」プロジェクトでは、「ゼロイチ人材の育て方」というテーマで編集部と一緒に議論し、一部の取材にも同行していただく「オープン編集会議メンバー(第3期)」を公募します。詳細は記事最後の参加者募集概要をご覧ください。ご応募、お待ちしております。

オープン編集会議とは

読者が自分の意見を自由に書き込めるオピニオンプラットフォーム「日経ビジネスRaise(レイズ)」を活用し、日経ビジネスが取材を含む編集プロセスにユーザーの意見を取り入れながら記事を作っていくプロジェクト。

井口尊仁(いぐち・たかひと)氏
米DOKI DOKI, INC. CEO(最高経営責任者)ジャストシステムを経て起業し、ミニブログサービスを開始。その後、頓智ドットを創業して2008年、iPhoneが捉えた世界に関連情報をリアルタイムに合成するAR(拡大現実)アプリ「セカイカメラ」を発表。13年には眼鏡型ウェアラブル機器を開発するテレパシーを創業した。現在、会話を自動認識して関連する画像や映像をリアルタイムに収集・表示することで音声コミュニケーションを可視化するサービス「トランスペアレント」を準備中。(写真:的野弘路、以下同)

井口さんはこれまで、iPhoneが登場してすぐにAR(仮想現実)技術を使ったアプリ「セカイカメラ」を開発したり、眼鏡型ウェアラブル機器「テレパシー・ワン」を開発したり、アイデアをすぐに形にして発表してきました。今はどのようなサービスの開発に取り組んでいますか。

井口尊仁氏:米サンフランシスコを拠点に、DOKI DOKI, INC.という会社で「トランスペアレント」というサービスを開発しています。話している会話を音声認識して、関連する画像や映像をリアルタイムに収集・表示していくサービスです。音声コミュニケーションを可視化することで、例えば会議の参加者の理解を助け、生産性を向上することを目指しています。今はβ版のリリースに向けて準備中です。

よく、アイデアをどんどん付箋に書いて壁に貼っていったり、ホワイトボードに図を描いたりしながら会議をしますよね。創造性を高める手法として「ビジュアルミーティング」というものがありますが、ビジュアルは議論の活性化や理解をより定着させることに役に立ちます。それを、自動でやろうというものです。

昨年12月にプロトタイプを作ったら結構いいものができて、今年3月にSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト=米オースティンで開催されるテクノロジーイベント)で発表したら、大ウケでした(笑)。特にウケたのは、人種間のコミュニケーションの壁を越えられるのではないか、という期待からです。欧米では移民の流入などによって異なるバックグラウンドを持つ人たちとのコミュニケーションが課題になっています。会話の内容がどんどんビジュアル化されれば、お互いに会話の前提をビジュアルで共有したうえで話ができるので、相互理解が進むというわけです。

面白いですね。「セカイカメラ」もそうでしたが、これまで世の中になかったサービスを作るとき、井口さんはどのようにしてアイデアを形にしているのですか。

井口氏:僕には良くも悪くも、この先の世界が見える瞬間というのがあるんです。会話をビジュアル化したら世界はどうなるかとか、そんなイメージがぱーっと頭に浮かぶんですよ。こうなるに違いないって。SF作家の感じに近いのかなと思っています。そうなると、もうどうしようも試してみたくなるんです。

だけど、それを一度に実現することはできないから、一番大切な機能に絞ってまずは作って自分で触って動かしてみるんです。そうしないと、それが本当にイケてるのかどうかわからないですから。

 

「セカイカメラ」のときもそうでした。「こういうのがいいな」と思っていたら、目の前にそれができる人が現れたんです。地下鉄東西線に乗っていたら、向こうから知っている人が乗り込んできました。それが、情報科学芸術大学院大学(IAMAS)教授の赤松正行さんでした。まだ日本でiPhoneが発売される前のことです。

 

赤松さんに「セカイカメラ」というのを考えているんだと言ったら、2カ月くらいでめちゃめちゃイケてるデモンストレーションを動かせるようになっていました。

 

何か新しい世界観が思い浮かんだら、あとはやるしかないんです。なにより、試作品を作って人に自慢したいじゃないですか。面白いでしょう、絶対イケてるからちょっと触ってみてとね。僕は子供っぽいんですよ。

真っ先に試作をしてデモを見せることで、仲間も投資家も動かせるという効果があるのではないでしょうか。

井口氏:起業家と投資家がうまくマリッジ(結婚)しないと、プロダクトは動かないですよね。確かに、プロダクトがあるから、投資家にも説明しやすいし、ファーストカスタマーも獲得できるという効果はあります。

セカイカメラのときはどうでしたか。

井口氏:セカイカメラが注目されるきっかけは、米国で開かれたイベント「TechCrunch50」でした。そこで、TechCrunch50の立ち上げに関わっていたエンジェル投資家のジェイソン・カラカニスに出会ったんです。応募してきた1400社の中の50社にセカイカメラの頓智ドットを選んでくれました。

そこでステージに上がってプレゼンすると、もう大ウケでスタンディングオベーション。そこからの投資のオファーがすごかったですね。日本を出発する前は、日本の投資家は見向きもしなかったのに。

iPhoneはまだ日本で発売されていなかったから仕方がない面もありましたが、そもそもiPhoneに対してタッチパネルが使いにくいとか、おサイフケータイを使えないとか、iモードも使えないとか、もうさんざん否定されました。今から振り返ると笑っちゃいますが。

セカイカメラでは15億円ほどの資金を投資家から集めたそうですね。

井口氏:そうです。ただ、結果的にはうまくいきませんでした。今、失敗の原因を私が言うと後付けで何でも言えてしまうから、正直、説明は難しい気がします。ただ、ARのアプリケーションでこれまで成功しているのは、「ポケモンGO」のようなゲームを除くと、まだほとんど皆無です。

テクノロジーって、そういうところがありますよね。映写機だって無線機だって飛行機だって電話だって、それ以前に原型のようなものはたくさんあったんだと思うんです。そういう積み重ねがあって、どこかの段階で製品として広がって、誰もが習慣的に使うほど普及するんです。僕らは、普及した製品についてはよく知っているけど、その前の原型は記憶にない。それを考えるとARもこの先どうなるか、非常に興味深いです。

井口さんにとって、新しい製品やサービスを考える上での軸のようなものはあるのでしょうか。

井口氏:純粋に面白いものという狙い方では必ずしもないのですが、おそらく3つの要素があって、「やりたいもの」と「できるもの」と「求められるもの」のバランスだと思います。自分がやりたいと思うものじゃないとパッションは生まれないし、行動も起こりにくいですよね。

一方、それを可能にする何らかのスキルやアセットがないと、なかなかうまく実現できません。例えば、プログラミングがすごく苦手とか、コンピューターやデジタルが嫌いとか、そう思っているとARのようなサービスは無理でしょう。

あとは、世の中がそれを使ってくれるか。いくら自分が気に入っていても、人気が出ないとむなしいじゃないですか。

それと、今の会社(DOKI DOKI, INC.)を始めるとき気付いたんですけど、非常に孤独だなと感じることが結構あるんです。

人間の孤独を解消したい

「孤独」ですか。

井口氏:何だろう。例えば、何か新しいプロジェクトを起こそうと考えているとき、自分一人で沈黙して考えているわけではないんですよ。誰かと語り合っているときが一番楽しいんですよね。

セカイカメラもテレパシーも、自分のやりたいことをできる限りの力をかけてやったつもりなんですが、自分は何でこれをやっていたんだろうと振り返ると、人間の孤独を解消したいという気持ちがすごく強かったんだと気が付いたんです。

セカイカメラとテレパシーで20億円くらいファンドレイズして、トータルで100人以上の素晴らしい方々と仕事をさせていただいた中で、やっぱり失敗するのは嫌ですよね。しくじるのもつらいじゃないですか。起業したり製品を作ったりするのをやめてもいいと思うこともあるのですが、でも、やっぱりやりたいんですよ。

先ほどもお話ししましたが、アイデアを思い付いたら、実現してみんなで面白がりたいんです。だから、やめられないんですよ。

 

成功しよう、勝とうと思わないとリングにも上がれない

日経ビジネスでは「起業って怖くない? 『起業のリアル』を語ろう」というテーマで、ユーザー参加型メディア「Raise」にて読者から意見を募ってきました。イノベーションに関する取材をしていると、もっと多くの人が起業しやすい環境が必要だという見方をよく聞くからです。

井口氏:「怖さ」を問題にするのはなんでなんですか。怖ければやめればいい、それだけですよ。起業はちょっと怖いけど、だからいろいろと支援します、というようなことが、本当に必要なんでしょうか。

別の言い方をすると、「成功しよう」というのと「失敗しないようにしよう」、あるいは「勝とう」と思うのと「負けないようにしよう」というのでは、生きていく上での姿勢は全く異なりますよね。

サンフランシスコやシリコンバレーでは、石を投げればバリバリのすごい起業家に当たるわけです。何回も起業してものすごい財産を築いているような。そういう人に勝とうと思わない限り、同じリングにすら上がれないですよね。

だから、何か新しい製品やサービスを作ったり、起業したりするときに、「俺、うまくいくか心配でさぁ。失敗しないようにするのも大変で」なんて言っているような人が、イノベーションを起こせますか。「俺は絶対に勝つ、死ぬほど成功する」と確信している人が、新しい価値を創造するんです。

「怖くないですか」なんて愚問ですね。

井口氏:そう、愚問なんですよ。戦う前から勝負になっていないどころか、土俵にすら上がれていない。

セカイカメラやテレパシーが最終的にうまくいかなかったことは、今後新しいサービスを立ち上げて資金調達をする際に悪影響を及ぼすようなことはないでしょうか。

井口氏:日本はよく知りませんが、米国や欧州では全くないですね。なぜかというと、チームを作って、イケてるプロダクトを作って、少なくとも大きいトレンドにしたということだけでも、十分に価値があると判断されますから。

クルマも飛行機も電話も、あらゆる発明は失敗なくしてできていないですよね。失敗しないで成功しようって、そんな虫のいいことは無理なんじゃないですか。だから、何か挑戦をする際に、失敗するとダメだとか、不安と思うとかは問題外です。よくない考え方に飲み込まれていますよ。

米国で若い人たちと話していると、「井口、お前イケてない」とか「俺の方が100倍いいから出資しろ」みたいに話しかけてくる連中ばかりです。「怖い」とか「不安」とか「失敗すると傷がつく」とか言っていては、何か新しい価値を生み出すことに挑戦しようという発想すら、出てこなくなってしまうのではないでしょうか。

 

引用元

https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/070600229/101500022/

題名がかっこいいですね。「起業は怖くないか? そんなの愚問だね」というのはかっこいいですね。

ここまで芯がある人は見ていて素晴らしいです。これからも応援しております。

 

 

 

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