当たり前だが、本来「広告」は、マーケティング目標に対する効果を考慮して出稿するべきである。例えば1億円の広告予算をかけたなら、1億円以上の利益をもたらす価値を目標にするべきである。それは、「ブランディング広告」でも全く同じである。
しかし不思議なことに、本来「当たり前」のことだが、なぜか日本の広告業界では無視されていることが多い。
最近、広告業界でこういうことを言っている人が多くありませんか?
- 短期的視点なCPA至上主義の「刈り取り広告」はもう古い!
- これからは中長期視点での「ブランディング広告」が重要だ!
- ブランドの世界観のトーン&マナーを統一させることがマーケティングの価値でしょ!
- カスタマージャーニーでしょ!
- カスタマーエクスペリエンスでしょ!
- やっぱマーケティングファネルの上部の「ブランディング広告」に投資しなくちゃ!
こんな感じで最近広告業界ではCPA/CPOをKPIとした「刈り取り広告」を“短期的”だとか、“卒業・脱却しなくちゃ”と主張する“刈り取り広告否定主義者”が多いけど、ぶっちゃけ「刈り取り至上主義」でよくね?
ズバリ、世の中の企業の“99.7%が中小企業”である。中小企業はきょうの売り上げを確保するのに必死だ。超余裕のある大金持ちのびのびクライアントでない限り、広告に投資した以上は、売り上げに直結する刈り取りを求めるのは当たり前である。特に「通販業界」ならなおさらである!
さらに、今の広告業界で語られる「ブランディング」というのが非常に薄っぺらい。実際のところ、ズバリ、費用対効果を意識したくないがために、売り上げの責任を持ちたくないがために、つまりは“逃げ”のために曖昧に「ブランディング」とか言っている広告代理店や媒体社が多いのが事実である!
試しに身近な広告代理店に「ご提案のブランディング広告をやったら、ウチの売り上げはどれぐらい伸びるの?」と聞いてみるといい。彼らの多くは押しなべて「どちらかと言うと、ブランディング広告は商品の売り上げに直結するもんじゃないんですよ~。よい認知とイメージを作って、御社の販促をバックアップするんですよ~」と答えるでしょう……。
それに対し、「では、その認知とイメージではいつ、どんなふうに、いくらの売り上げをもたらすのかを教えてもらえる?」と聞いてみるといい。間違いなくその広告代理店は“沈黙”するだろう……。
実は私は、今でこそダイレクトマーケティングの領域で特化しているものの、前職アサツー ディ・ケイ時代はテレビCMや新聞に代表される「ブランディング広告」を長く担当していた。その後、ネットを中心としたダイレクトマーケティングに転換しているので、オフラインとオンラインの両方を経験している。こうした経歴を持つ広告マンは、この業界では多分、結構珍しいパターンである。
オフラインもデジタルも両方経験しているからこそ言いたい。ぶっちゃけ今の広告・マーケティング業界はキレイゴトばかりだし、もっと言うと、広告代理店や媒体社の“思惑”だらけな気がしてならない。シンプルなことをわざと複雑化しすぎ!
結論、広告・マーケティングの目的は、ズバリ商品が“売れる”ことだけである! 売り上げにつながらない「ブランディング広告」なんて無意味なのである!
ただし、特に通販の場合、売り上げが100億円以上の規模になると、その企業や商品の理念を伝える「ブランディング広告」も加えないと次のレベルには上がれないのは事実!!
なので、今回のコラムでは、数字に一番シビアな通販業界において、日本の大手メーカー系通販会社の約7割のコンサルティングをやってきた私だからこそ語ることができる、売り上げ100億円以上の勝ち組通販が必ずやっている超シンプルな3つのノウハウについて、珍しく「ブランディング広告」の領域にまで踏み込んでお話ししよう!!!
◆勝ち組通販が必ずやっている超シンプルなノウハウ(1)
「ブランディング広告」は「刈り取り広告」のレスポンスに「倍増効果=ドーピング効果」をもたらす!
結論からいうと、売り上げ100億円以上の勝ち組通販が展開している「ブランディング広告」と「刈り取り広告」の仕組みは非常にシンプル。ズバリ、勝ち組通販は、テレビCMをはじめとした「ブランディング広告」を打つことにより、ネット広告・折り込みチラシ・インフォマーシャルなどの「刈り取り広告」のレスポンスが劇的に伸びる「倍増効果=ドーピング効果」を利用しているのだ。しかも、18年間であらゆる通販クライアントの数値を見てきた経験則でその「倍増効果=ドーピング効果」は約1.5倍がMAX!
鍵となるのは、「ブランディング広告」による「刈り取り広告」でのレスポンスの「倍増効果=ドーピング効果」を狙うメディア戦略。そして、「ブランディング広告」と「刈り取り広告」のクリエイティブに“二重人格”を認めるという手法。「ブランディング広告」や「刈り取り広告」をどう位置づけるのか、そして売り上げ100億円の壁を乗り越えてきた勝ち組通販会社はどんな戦略を取っているのか、その具体的なノウハウについて、事例も交えながらお伝えしたい。
どういうことなのか、具体例を見ながら説明しよう。
「倍増効果=ドーピング効果」のケーススタディー:某大手健康食品通販
某大手健康食品通販の事例である。このグラフは「ブランディング広告」のテレビCM出稿量(GRP)と、「刈り取り広告」のレスポンス(申込数)の相関関係なのだが、「ブランディング広告」のテレビCM出稿期間中は、ネット広告・折り込みチラシ・インフォマーシャル・新聞つかみ広告(割安な新聞広告)などの「刈り取り広告」のレスポンスが、約1.5倍になっている!
繰り返しになるが、ネット広告・折り込みチラシ・インフォマーシャル・新聞つかみなどの「刈り取り広告」のレスポンスが平均して約1.5倍である! 「ブランディング広告」により、「刈り取り広告」のレスポンスに「倍増効果=ドーピング効果」をもたらすのである!!
こんなことを言うと、「ネット広告でもブランディングはできる!」といった反論も来そうだが……実は私をはじめ多くのダイレクトマーケターの意見として、ネット広告は根本的にブランディングに向いていない。その理由は2つある。
まず1つ目の理由は、ネット広告でブランディングを図っても、テレビCMのように、レスポンスが約1.5倍になるような「倍増効果=ドーピング効果」が狙えないからである。ここでもう1つの事例として、ネット広告でブランディングを狙った失敗事例についてもお伝えしよう。
これは、大手ブランド系ネット広告掲載枠でブランディングに試みた事例である。ネット広告の露出(imp)とレスポンスとの相関図を見ると、多少は「刈り取り広告」のレスポンスが増えているものの、せいぜい1.2倍程度の増加しかなかった。つまり、ネット広告でのブランディングでは、テレビCMほどの「倍増効果=ドーピング効果」が見込めないのである。
テレビの「権威」がブランド価値を高める
ネット広告は根本的にブランディングに向いていない2つ目の理由は、テレビCMに比べてネットには“権威”がないからである。ディスプレイ広告の枠サイズや位置も所詮“雑報”レベルなのだ。
ネット広告というのは正直少額で誰でも出稿ができる媒体である。一方、テレビCMは最低でも数千万円、場合によっては億単位の広告費が必要となる。新聞15段広告もそうだ。だからこそ、こうした媒体には“権威”があるし、極端な話でいくと、フリーペーパーに広告が出ていたとしても、これは“権威”がないのでブランディングにはならない。
さらに、効率の話をするとすれば、「ブランディング広告」においては、テレビCMの方が一人あたりのリーチ単価が安い。全画面を独占できるから当然リーチも大きいし、何より圧倒的な露出度があるため、この時代になっても未だにブランディングとして最適な媒体はテレビCMなのである。“権威”があって圧倒的な露出が図れるテレビCMだからこそ、レスポンスの「倍増効果=ドーピング効果」が見込めるのだ。
私はかつて、売り上げが数百億円ある通販会社、やずやの「ブランディング広告」と「刈り取り広告」の両方を手掛けていたことがあるのだが、「ブランディング広告」のテレビCMを打つとレスポンスの「倍増効果=ドーピング効果」が見込めることが分かっていたので、「ブランディング広告」のテレビCMを打つ時は同時に「刈り取り広告」を一気に投下していた。
つまり、ネット広告・折り込みチラシ・インフォマーシャル・新聞つかみ・DMなどに広告費を一気に投下するのである。そうすることで、テレビCMの莫大な広告費をペイ出来るほどのレスポンスを取ることが出来たのである。
◆勝ち組通販が必ずやっている超シンプルなノウハウ(2)
「ブランディング広告」と「刈り取り広告」のクリエイティブのトンマナは“二重人格”!
結論からいうと、「ブランディング目的の広告」と「レスポンス目的の広告」はクリエイティブのトンマナ(トーン&マナー)を完全に分けるべきだ。そう、“二重人格”でいいんだ。
一番良くないのは「ブランディングをしながら、レスポンスをとれる広告」を期待すること。それをやるとどっちつかずの中途半端な広告になってしまう。例えるなら、「純情だけど色っぽい女性がいい」と言っているようなものである(笑)。
実際に、勝ち組通販では、テレビCMなどの「ブランディング広告」と、ネット広告・折り込みチラシ・インフォマーシャル・新聞つかみなどの「刈り取り広告」のクリエイティブのトンマナは“二重人格”になっている! この“二重人格”戦略が、最も効率が良い。
「ブランディング広告」はレスポンスがゼロだと割り切ってクリエイティブのトンマナを“超上品”に、逆に「刈り取り広告」はクリエイティブのトンマナを“超コテコテ”に分けること、これが勝ち組通販のやり方なのである!
そこを心得ていない広告マンは「ブランドの世界観のトーン&マナーを統一させるのがマーケティングの価値でしょ!」などと言っているが、そんなものはただのキレイゴトにすぎない。
事実として、“二重人格”戦略の方が売れているのだ。「ブランディング広告」と「刈り取り広告」のクリエイティブのトンマナは“二重人格”で良いのだ。媒体ごとの特性をしっかり理解して、役割をしっかり定義して振り切る、これが重要なのである!
“二重人格”のケーススタディー(1):山田養蜂場
“二重人格”のケーススタディー(2):ファンケル
ユニクロ、ソフトバンクも実践する
別に通販会社だけではない。日本では勝ち組と言われているユニクロやソフトバンクなどの一般企業でもこの“二重人格”戦略を採用している!
“二重人格”のケーススタディー(3):ユニクロ
“二重人格”のケーススタディー(4):ソフトバンク
例えば、ユニクロのテレビCMを見ると外国人のモデルを起用した、“超上品”なシャレオツなテレビCMとなっている。煽りや検索窓などのCTAなんてほぼない。その一方で、ネット広告・折り込みチラシなどの「刈り取り広告」はどうだろうか。一面に所狭しと商品の写真が並べられていて、割引価格などのお得さを全面に出しているまるでスーパーのチラシのような“超コテコテ”のクリエイティブである。
ソフトバンクのテレビCMなどもこれに該当する。ソフトバンク、NTTドコモ、KDDI(au)など、大手携帯キャリア系は、テレビCMにレスポンスを求めていない。テレビCMはあくまでも「ブランディング広告」として、“超上品”に、逆に「刈り取り広告」は“超コテコテ”のクリエイティブのトンマナで、“二重人格”を認めているのである。勝ち組通販会社でも一般企業でも同じ。この“二重人格”戦略で展開しているのだ。
◆勝ち組通販が必ずやっている超シンプルなノウハウ(3)
「ブランディング広告」と「刈り取り広告」のコスト配分はMAXで「1:2」!
最後に、重要となるのが「ブランディング広告」と「刈り取り広告」のコスト配分である。
認知から購入に至る段階を上から下へ示したブランドファネルは一般的に“逆三角形”の構図なので、認知に相当するブランド広告費は“たくさん使わなければならない”という錯覚を生んでいるのだが、先ほどお伝えした通り、実際に「ブランディング広告」を打つことで、「刈り取り広告」への「倍増効果=ドーピング効果」は約1.5倍がMAXである。ということは、小学生でもわかる計算だが、「ブランディング広告」に投下できる予算は、「刈り取り広告」の予算の約半分がMAXだということである。
「普通の通販会社」の広告コスト配分……
規模が小さいうちはテレビCMなどの「ブランディング広告」なんか打たずに「刈り取り広告」だけに集中するべき。コテコテのクリエイティブでレスポンスをとってなんぼ。売り上げを上げてなんぼだ!
実際に世の中の一般的な普通の通販会社は「刈り取り広告」だけなので、広告コスト配分が下記の通り。「刈り取り広告」の広告費が1億円の場合、レスポンスが1万件だとすると、CPOは1万円となる。
「広告代理店に騙された通販会社」の広告コスト配分…
ちなみに、広告代理店に騙されて「ブランディング広告」に過剰投資した通販会社の広告コスト配分が下記の通り。
「ブランディング広告」としてテレビCMを打ち、その広告費が5億円だとすると、テレビCMの「倍増効果=ドーピング効果」により、レスポンスは約1.5倍になるのだが、「刈り取り広告」の広告費が1億円だと、CPOは4万円となる。つまり、通常時よりもレスポンスの「倍増効果=ドーピング効果」は見込めても、CPO効率は悪化するのだ。これは最悪のシナリオである。
「売り上げ100億円以上の勝ち組通販会社」の広告コスト配分!
そして、売り上げ100億円以上のレベルまでになった勝ち組通販の広告コスト配分が下記の通り。
勝ち組通販会社は、「刈り取り広告」をしっかりと整備した上で、テレビCMによる「ブランディング広告」を打つことで、「刈り取り広告」により約1.5倍のレスポンスを獲得する。この「倍増効果=ドーピング効果」を狙っているのである。
「ブランディング広告」としてテレビCMを打ち、その広告費が5000万円だとすると、テレビCMの「倍増効果=ドーピング効果」により、レスポンスは約1.5倍になるので、CPOは1万円となる。
見ての通り、「ブランディング広告」と「刈り取り広告」の広告費比率はMAXで「1:2」。売り上げ100億円以上の勝ち組通販会社の広告コスト配分だと、CPO効率はブレないのだ。もっというと「ブランディング広告」によりCPO効率は良くはならないが、一番の目的は1回のキャンペーンで獲得できるお客様の数が増え、規模の拡大も図れるからやっているのである!さらにプラスアルファの効果としてはLTVが向上するのである。
「刈り取り広告」は保険でいうと「掛け捨て型」、「ブランディング広告」は保険でいうと「積み立て型」。「刈り取り広告」はいくら投資してもブランドの貯金はできないが、「ブランディング広告」は確実にブランド(認知・理解・関心など)が貯金されていく。金融商品と同じで目的やバランスを考慮することが大切なのだ。
◆売り上げ100億円以上の勝ち組通販が必ずやっている超シンプルなノウハウのまとめ
最後に「まとめ」だが、売り上げ100億円を超えている勝ち組通販が必ずやっている「ブランディング広告」×「刈り取り広告」の仕組みは下記3つ!
- (1)「ブランディング広告」により、「刈り取り広告」のレスポンスに
「倍増効果=ドーピング効果」をもたらす!
- (2)「ブランディング広告」と「刈り取り広告」のクリエイティブのトンマナは“二重人格”!
- (3)「ブランディング広告」と「刈り取り広告」のコスト配分はMAXで「1:2」!
この鉄則を忘れないようにしてほしい。
でも、残念なことに、
■「ネット広告でブランディングをしながら、レスポンスをとれる広告」の幻想
■もっと「ブランディング広告」に広告費を投下するべきだという誘惑
■“超コテコテ”な「刈り取り広告」は自社のブランドイメージにそぐわないというプライド
これらの理由から、せっかく“売れる”仕組みが目の前にあるのに、それをやらない企業は数多くある。もったいない。非常にもったいない!
広告代理店も悪い。薄っぺらい「ブランディング広告」をどんどんクライアント(通販会社)に提案し、社内会議では華やかな「ブランディング広告」については徹底的に語り合う一方、商品の売れ行きを左右する大切な要素である「刈り取り広告(ネット広告・折り込みチラシ・インフォマーシャル・カタログ・POP・棚確保など)」がまず議題にのぼることすらない。つまりは購買プロセスの川下の部分がまったく真剣に考えられてない。
ご覧の通り、売り上げ100億円以上の勝ち組通販が必ずやっている「ブランディング広告」×「刈り取り広告」の仕組みは非常にシンプル。
売り上げが頭打ちになっている通販会社、現状の通販事業の売り上げ50億円以上で“そこそこ”売り上げがあるが、そこから先がなかなか飛びぬけて成長出来ないという通販会社は、本コラムでお伝えしたノウハウ3つをぜひ取り入れて、売り上げ100億円以上を目指してほしい!
引用元
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/246949/100900005/
確かにブランディングがうまくいかなかったら意味がないですね。
意味があるブランディングをやらなくてはいけませんね。
しかし、これは難しいことですね。